拈《ひね》り拈りて止まず。
「三百円やそこらの端金《はしたがね》で貴方《あなた》の御名誉を傷《きずつ》けて、後来御出世の妨碍《さまたげ》にもなるやうな事を為るのは、私の方でも決《け》して可好《このまし》くはないのです。けれども、此方《こちら》の請求を容《い》れて下さらなければ已《や》むを得んので、実は事は穏便の方が双方の利益なのですから、更に御一考を願ひます」
「それは、まあ、品に由つたら書替も為んではないけれど、君の要求は、元金《もときん》の上に借用当時から今日《こんにち》までの制規の利子が一ケ年分と、今度払ふべき九十円の一月分を加へて三百九十円かね、それに対する三月分の天引が百十七円|強《なにがし》、それと合《がつ》して五百円の証書面に書替へろと云ふのだらう。又それが連帯債務と言ふだらうけれど、一文だつて自分が費《つか》つたのでもないのに、この間九十円といふものを取られた上に、又改めて五百円の証書を書《かか》される! 余《あんま》り馬鹿々々しくて話にならん。此方《こつち》の身にも成つて少しは斟酌《しんしやく》するが可いぢやないか。一文も費ひもせんで五百円の証書が書けると想ふかい」
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