座敷へお出《いで》あそばして、お休み遊ばしましては如何《いかが》でございます」
「そんなに顔色が悪うございますか」
「はい、真蒼《まつさを》でゐらつしやいます」
「ああさうですか、困りましたね。それでは彼方《あちら》へ参つて、又皆さんに御心配を懸けると可《い》けませんから、お庭を一周《ひとまはり》しまして、その内には気分が復《なほ》りますから、さうしてお座敷へ参りませう。然し今日は大変|貴方《あなた》のお世話になりまして、お蔭様で私も……」
「あれ、飛んでもない事を有仰《おつしや》います」
 貴婦人はその無名指《むめいし》より繍眼児《めじろ》の押競《おしくら》を片截《かたきり》にせる黄金《きん》の指環を抜取りて、懐紙《ふところかみ》に包みたるを、
「失礼ですが、これはお礼のお証《しるし》に」
 静緒は驚き怖《おそ》れたるなり。
「はい……かう云ふ物を……」
「可《よ》うございますから取つて置いて下さい。その代り誰にもお見せなさらないやうに、阿父様《おとつさま》にも阿母様《おつかさま》にも誰にも有仰《おつしや》らないやうに、ねえ」
 受けじと為るを手籠《てごめ》に取せて、互に何も知らぬ顔
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