まだらがき》の此方《こなた》に、樫《かし》の実の夥《おびただし》く零《こぼ》れて、片側《かたわき》に下水を流せる細路《ほそみち》を鶏の遊び、犬の睡《ねむ》れるなど見るも悒《いぶせ》きに、静緒は急ぎ返さんとせるなり。貴婦人もはや返さんとするとともに恐懼《おそれ》は忽《たちま》ちその心を襲へり。
 この一筋道を行くなれば、もしかの人の出来《いできた》るに会はば、遁《のが》れんやうはあらで明々地《あからさま》に面《おもて》を合すべし。さるは望まざるにもあらねど、静緒の見る目あるを如何《いか》にせん。仮令《たとひ》此方《こなた》にては知らぬ顔してあるべきも、争《いか》でかの人の見付けて驚かざらん。固《もと》より恨を負へる我が身なれば、言《ことば》など懸けらるべしとは想はねど、さりとてなかなか道行く人のやうには見過されざるべし。ここに宮を見たるその驚駭《おどろき》は如何ならん。仇《あだ》に遇《あ》へるその憤懣《いきどほり》は如何ならん。必ずかの人の凄《すさまじ》う激せるを見ば、静緒は幾許《いかばかり》我を怪むらん。かく思ひ浮ぶると斉《ひとし》く身内は熱して冷《つめた》き汗を出《いだ》し、足は地に
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