さすがに可恐《おそろし》きやうにも覚えて、歩《あゆみ》は運べど地を踏める心地も無く、静緒の語るも耳には入《い》らで、さて行くほどに裏門の傍《かたはら》に到りぬ。
 遊覧せんとありしには似で、貴婦人の目を挙《あぐ》れども何処《いづこ》を眺むるにもあらず、俯《うつむ》き勝に物思はしき風情《ふぜい》なるを、静緒は怪くも気遣《きづかはし》くて、
「まだ御気分がお悪うゐらつしやいますか」
「いいえ、もう大概良いのですけれど、未《ま》だ何だか胸が少し悪いので」
「それはお宜《よろし》うございません。ではお座敷へお帰りあそばしました方がお宜うございませう」
「家《うち》の中よりは戸外《おもて》の方が未だ可いので、もう些《ち》と歩いてゐる中には復《をさま》りますよ。ああ、此方《こちら》がお宅ですか」
「はい、誠に見苦い所でございます」
「まあ、奇麗な! 木槿《もくげ》が盛《さかり》ですこと。白ばかりも淡白《さつぱり》して好《よ》いぢやありませんか」
 畔柳の住居《すまひ》を限として、それより前《さき》は道あれども、賓《まらうど》の足を容《い》るべくもあらず、納屋、物干場、井戸端などの透きて見ゆる疎垣《
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