邸内《やしきうち》でございます。これから直《ぢき》に見えまする、あの、倉の左手に高い樅《もみ》の木がございませう、あの陰に見えます二階家が宅なのでございます」
「おや、さうで。それではこの下から直《ずつ》とお宅の方へ行《い》かれますのね」
「さやうでございます。お邸の裏門の側でございます」
「ああさうですか。では些《ちつ》とお庭の方からお邸内を見せて下さいましな」
「お邸内と申しても裏門の方は誠に穢《きたな》うございまして、御覧あそばすやうな所はございませんです」
 宮はここを去らんとして又|葉越《はごし》の面影を窺《うかが》へり。
「付かない事をお聞き申すやうですが、那処《あすこ》にお父様《とつさま》とお話をしてゐらつしやるのは何地《どちら》の方ですか」
 彼の親達は常に出入《でいり》せる鰐淵《わにぶち》の高利貸なるを明さざれば、静緒は教へられし通りを告《つぐ》るなり。
「他《あれ》は番町の方の鰐淵と申す、地面や家作などの売買《うりかひ》を致してをります者の手代で、間《はざま》とか申しました」
「はあ、それでは違ふか知らん」
 宮は聞えよがしに独語《ひとりご》ちて、その違《たが》へる
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