爵家の構内《かまへうち》にて、三棟《みむね》並べる塗籠《ぬりごめ》の背後《うしろ》に、桐《きり》の木高く植列《うゑつら》ねたる下道《したみち》の清く掃いたるを行窮《ゆきつむ》れば、板塀繞《いたべいめぐ》らせる下屋造《げやつくり》の煙突より忙《せは》しげなる煙《けふり》立昇りて、折しも御前籠《ごぜんかご》舁入《かきい》るるは通用門なり。貫一もこれを入《い》りて、余所《よそ》ながら過来《すぎこ》し厨《くりや》に、酒の香《か》、物煮る匂頻《にほひしき》りて、奥よりは絶えず人の通ふ乱響《ひしめき》したる、来客などやと覚えつつ、畔柳が詰所なるべき一間《ひとま》に導かれぬ。
(四) の 二
畔柳元衛《くろやなぎもとえ》の娘|静緒《しずお》は館《やかた》の腰元に通勤せるなれば、今日は特に女客の執持《とりもち》に召れて、高髷《たかわげ》、変裏《かはりうら》に粧《よそひ》を改め、お傍不去《そばさらず》に麁略《そりやく》あらせじと冊《かしづ》くなりけり。かくて邸内遊覧の所望ありければ、先《ま》づ西洋館の三階に案内すとて、迂廻階子《まはりばしご》の半《なかば》を昇行《のぼりゆ》く後姿《うしろ
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