あり。歯性悪ければとて常に涅《くろ》めたるが、かかるをや烏羽玉《ぬばたま》とも謂《い》ふべく殆《ほとん》ど耀《かがや》くばかりに麗《うるは》し。茶柳条《ちやじま》のフラネルの単衣《ひとへ》に朝寒《あささむ》の羽織着たるが、御召|縮緬《ちりめん》の染直しなるべく見ゆ。貫一はさすがに聞きも流されず、
「何為《なぜ》ですか」
 お峯は羽織の紐《ひも》を解きつ結びつして、言はんか、言はざらんかを遅《ためら》へる風情《ふぜい》なるを、強《し》ひて問はまほしき事にはあらじと思へば、貫一は籃《かご》なる栗を取りて剥《む》きゐたり。彼は姑《しばら》く打案ぜし後、
「あの赤樫《あかがし》の別品《べつぴん》さんね、あの人は悪い噂《うはさ》が有るぢやありませんか、聞きませんか」
「悪い噂とは?」
「男を引掛けては食物《くひもの》に為るとか云ふ……」
 貫一は覚えず首を傾けたり。曩《さき》の夜の事など思合すなるべし。
「さうでせう」
「一向聞きませんな。那奴《あいつ》男を引掛けなくても金銭《かね》には窮《こま》らんでせうから、そんな事は無からうと思ひますが……」
「だから可《い》けない。お前さんなんぞもべいろ
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