ばかりさま》ですが、もう一つお酌を」
「酔つちや困ります。用事は酔はん内にお話し下さい」
「今晩は私酔ふ意《つもり》なのでございますもの」
その媚《こび》ある目の辺《ほとり》は漸《やうや》く花桜の色に染みて、心楽しげに稍《やや》身を寛《ゆるやか》に取成したる風情《ふぜい》は、実《げ》に匂《にほひ》など零《こぼ》れぬべく、熱しとて紺の絹精縷《きぬセル》の被風《ひふ》を脱げば、羽織は無くて、粲然《ぱつ》としたる紋御召の袷《あはせ》に黒樗文絹《くろちよろけん》の全帯《まるおび》、華麗《はなやか》に紅《べに》の入りたる友禅の帯揚《おびあげ》して、鬢《びん》の後《おく》れの被《かか》る耳際《みみぎは》を掻上《かきあ》ぐる左の手首には、早蕨《さわらび》を二筋《ふたすぢ》寄せて蝶《ちよう》の宿れる形《かた》したる例の腕環の爽《さはやか》に晃《きらめ》き遍《わた》りぬ。常に可忌《いまは》しと思へる物をかく明々地《あからさま》に見せつけられたる貫一は、得堪《えた》ふまじく苦《にが》りたる眉状《まゆつき》して密《ひそか》に目を※[#「※」は「(睹−目)/(翕−合)」、97−5]《そら》しつ。彼は女の貴族
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