》打ちたる手鞄《てかばん》を取直して、婦人はやをら起上《たちあが》りつ。迷惑は貫一が面《おもて》に顕《あらは》れたり。
「何方《どちら》へ?」
「何方《どちら》でも、私には解りませんですから貴方《あなた》のお宜《よろし》い所へ」
「私にも解りませんな」
「あら、そんな事を仰有《おつしや》らずに、私は何方でも宜《よろし》いのでございます」
 荒布革《あらめがは》の横長なる手鞄《てかばん》を膝の上に掻抱《かきいだ》きつつ貫一の思案せるは、その宜き方《かた》を択ぶにあらで、倶《とも》に行くをば躊躇《ちゆうちよ》せるなり。
「まあ、何にしても出ませう」
「さやう」
 貫一も今は是非無く婦人に従ひて待合所の出会頭《であひがしら》に、入来《いりく》る者ありて、その足尖《つまさき》を挫《ひし》げよと踏付けられぬ。驚き見れば長高《たけたか》き老紳士の目尻も異《あやし》く、満枝の色香《いろか》に惑ひて、これは失敬、意外の麁相《そそう》をせるなりけり。彼は猶懲《なほこ》りずまにこの目覚《めざまし》き美形《びけい》の同伴をさへ暫《しばら》く目送《もくそう》せり。
 二人は停車場《ステエション》を出でて、指す
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