何の故にさしも懐《おもひ》に忘れざる旧友と相見て別《べつ》を為さざりしか。彼が今の身の上を知らば、この疑問は自《おのづか》ら解釈せらるべし。
柵の外に立ちて列車の行くを送りしは独《ひと》り間貫一のみにあらず、そこもとに聚《つど》ひし老若貴賤《ろうにやくきせん》の男女《なんによ》は皆個々の心をもて、愁ふるもの、楽むもの、虞《きづか》ふもの、或は何とも感ぜぬものなど、品変れども目的は一《いつ》なり。数分時の混雑の後車の出《い》づるとともに、一人散り、二人散りて、彼の如く久《ひさし》う立尽せるはあらざりき。やがて重き物など引くらんやうに彼の漸《やうや》く踵《きびす》を旋《めぐら》せし時には、推重《おしかさな》るまでに柵際《さくぎは》に聚《つど》ひし衆《ひと》は殆《ほとん》ど散果てて、駅夫の三四人が箒《はうき》を執りて場内を掃除せるのみ。
貫一は差含《さしぐま》るる涙を払ひて、独り後《おく》れたるを驚きけん、遽《にはか》に急ぎて、蓬莱橋口《ほうらいばしぐち》より出《い》でんと、あだかも石段際に寄るところを、誰《たれ》とも知らで中等待合の内より声を懸けぬ。
「間さん!」
慌《あわ》てて彼の
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