たり。宮は見るより必死と起上りて、脚の傷《いたみ》に幾度《いくたび》か仆《たふ》れんとしつつも後を慕ひて、
「貫一さん、それぢやもう留めないから、もう一度、もう一度……私は言遺《いひのこ》した事がある」
遂《つひ》に倒れし宮は再び起《た》つべき力も失せて、唯声を頼《たのみ》に彼の名を呼ぶのみ。漸《やうや》く朧《おぼろ》になれる貫一の影が一散に岡を登るが見えぬ。宮は身悶《みもだえ》して猶《なほ》呼続けつ。やがてその黒き影の岡の頂《いただき》に立てるは、此方《こなた》を目戍《まも》れるならんと、宮は声の限に呼べば、男の声も遙《はるか》に来りぬ。
「宮《みい》さん!」
「あ、あ、あ、貫一《かんいつ》さん!」
首を延べて※[#「※」は「目+旬」、78−14]《みまは》せども、目を※[#「※」は「目+登」]《みは》りて眺むれども、声せし後《のち》は黒き影の掻消《かきけ》す如く失《う》せて、それかと思ひし木立の寂しげに動かず、波は悲き音を寄せて、一月十七日の月は白く愁ひぬ。
宮は再び恋《こひし》き貫一の名を呼びたりき。
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第 一 章
新橋停車
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