まざらんやうに、限も知らず長く亘《わた》りぬ。げにこの積る話を聞きも聞せもせんが為に、彼等はここに来つるにやあらん。されども、日は明日《あす》も明後日《あさつて》も有るを、甚《はなは》だ忙《せはし》くも語るもの哉《かな》。さばかり間遠《まどほ》なりし逢瀬《あふせ》なるか、言はでは裂けぬる胸の内か、かく有らでは慊《あきた》らぬ恋中《こひなか》か、など思ふに就けて、彼はさすがに我身の今昔《こんじやく》に感無き能はず、枕を引入れ、夜着《よぎ》引被《ひきかつ》ぎて、寐返《ねがへ》りたり。
 何時罷《いつや》みしとも覚えで、彼等の寐物語は漸く絶えぬ。
 貫一も遂に短き夢を結びて、常よりは蚤《はや》かりけれど、目覚めしままに起出《おきい》でし朝冷《あさびえ》を、走り行きて推啓《おしあ》けつる湯殿の内に、人は在らじと想ひし眼《まなこ》を驚《おどろか》して、かの男女《なんによ》は浴《ゆあみ》しゐたり。
 貫一ははたと閉《とざ》して急ぎ返りつ。

     第 四 章

 両箇《ふたり》はやや熱かりしその日も垂籠《たれこ》めて夕《ゆふべ》に抵《いた》りぬ。むづかしげに暮山《ぼさん》を繞《めぐ》りし雲は、果して雨と成りて、冷々《ひやひや》と密下《そぼふ》るほどに、宵の燈火《ともしび》も影|更《ふ》けて、壁に映《うつろ》ふ物の形皆寂く、憖《なまじ》ひに起きて在るべき夜頃《よごろ》ならず。さては貫一も枕《まくら》に就きたり。
 ラムプを細めたる彼等の座敷も甚《はなは》だ静に、宿の者さへ寐急《ねいそ》ぎて後十一時は鳴りぬ。
 凄《すさまじ》き谷川の響に紛れつつ、小歇《をやみ》もせざる雨の音の中に、かの病憊《やみつか》れたるやうの柱時計は、息も絶気《たゆげ》に半夜を告げわたる時、両箇《ふたり》が閨《ねや》の燈《ともし》は乍《たちま》ち明《あきら》かに耀《かがや》けるなり。
 彼等は倶《とも》に起出でて火鉢《ひばち》の前に在り。
「膳《ぜん》を持つて来ないか」
「ええ」
 女は幺微《かすか》なる声して答へけれど、打萎《うちしを》れて、なかなか立ちも遣《や》らず。
「狭山さん、私《わたし》は何だか貴方《あなた》に言残した事が未《ま》だ有るやうな心持がして……」
「吁《ああ》、もうかう成つちやお互に何も言はないが可《い》い。言へばやつぱり未練が出る」
 彼は熟《じ》と内向《うつむ》きて、目を閉ぢたり
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