なあ!
 宮、貴様は自殺を為た上身を投げたのは、一つの死では慊《あきた》らずに、二つ命を捨てた気か。さう思つて俺は不敏《ふびん》だ!
 どんな事が有らうとも、貴様に対するあの恨は決して忘れんと誓つたのだ。誓つたけれども、この無残な死状《しにざま》を見ては、罪も恨《うらみ》も皆消えた! 赦したぞ、宮! 俺《おれ》は心の底から赦したぞ!
 今はの際《きは》に赦したと、俺が一言《ひとこと》云つたらば、あの苦い息の下から嬉いと言つたが、宮、貴様は俺に赦されるのがそんなに嬉いのか。好く後悔した! 立派な悔悟だぞ!!
 余り立派で、貫一は恥入つた! 宮、俺は面目《めんもく》無い! これまでの精神とは知らずに見殺《みごろし》に為たのは残念だつた! 俺が過《あやまり》だ! 宮、赦してくれよ! 可《い》いか、宮、可いか。
 嗚呼《ああ》死んで了ったのだ!!!」
 貫一は彼の死の余りに酷《むご》く、余りに潔きを見て、不貞の血は既に尽《ことごと》く沃《そそ》がれ、旧悪の膚《はだへ》は全く洗れて、残れる者は、悔の為に、誠の為に、己《おのれ》の為に捨てたる亡骸《なきがら》の、実《げ》に憐《あはれ》みても憐むべく、悲みても猶《なほ》及ばざる思の、今は唯|極《きは》めて切なる有るのみ。
 かの烈々《れつれつ》たる怨念《おんねん》の跡無く消ゆるとともに、一旦|涸《か》れにし愛慕の情は又泉の涌《わ》くらんやうに起りて、その胸に漲《みなぎ》りぬ。苦からず哉《や》、人|亡《な》き後の愛慕は、何の思かこれに似る者あらん。彼はなかなか生ける人にこそ如何《いか》なる恨をも繋《か》くるの忍び易《やす》きを今ぞ知るなる。
 貫一は腸断《ちようた》ち涙連《なみだつらな》りて、我を我とも覚ゆる能はず。
「宮、貴様に手向《たむ》けるのは、俺のこの胸の中《うち》だ。これで成仏してくれ、よ。この世の事はこれまでだ、その代り今度の世には、貴様の言つた通り、必ず夫婦に成つて、百歳《ひやく》までも添《そひ》、添、添遂《そひと》げるぞ! 忘れるな、宮。俺も忘れん! 貴様もきつと覚えてゐろよ!」
 氷の如き宮が手を取り、犇《ひし》と握りて、永く眠れる面《おもて》を覗《のぞ》かんと為れば、涙急にして文色《あいろ》も分かず、推重《おしかさな》りて、怜《いと》しやと身を悶《もだ》えつつ少時《しばし》泣いたり。
「然し、宮、貴様は立派な者だ
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