《なん》ですか」
「往日《いつぞや》もお話致しましたが、金力で無理に私を奪つて、遂にこんな体にして了つた、謂はば私の讐《かたき》も同然なので。成程人は夫婦とも申しませうが私の気では何とも思つてをりは致しません。さうですから、自分の好いた方《かた》に惚《ほ》れて騒ぐ分は、一向|差支《さしつかへ》の無い独身《ひとりみ》も同じので御座います。
間さん、どうぞ赤樫にお会ひ遊ばしたら、満枝の奴が惚れてゐて為方が無いから、内の御膳炊《ごぜんたき》に貰つて遣るから、さう思へと、貴方が有仰《おつしや》つて下さいまし。私|豊《とよ》の手伝でも致して、此方《こなた》に一生奉公を致します。
貴方は大方赤樫に言ふと有仰《おつしや》つたら、震へ上つて私が怖《こは》がりでも為ると思召すのでせうが、私驚きも恐れも致しません、寧《むし》ろ勝手なのですけれど、赤樫がそれは途方に昧《く》れるで御座いませう」
貫一はほとほと答ふるところを知らず。満枝も然《しか》こそは呆《あき》れつらんと思へば、
「それは実際で御座いますの。若し話が一つ間違つて、面倒な事でも生じましたら、私が困りますよりは余程赤樫の方が困るのは知れてゐるのですから、私を遠《とほざ》けやう為に、お話をなさるのなら、徒爾《むだ》な事で御座います。赤樫は私を恐れてをりませうとも、私|些《ちよつ》ともあの人を恐れてはをりませんです。けれども、折角さう思召《おぼしめ》すものなら、物は試《ためし》で御座いますから、間さん、貴方、赤樫にお話し遊ばして御覧なさいましな。
私も貴方の事を吹聴致します。ああ云ふ主《ぬし》有る婦人と関係遊ばして、始終人目を忍んで逢引《あひびき》してゐらつしやる事を触散《ふれちら》しますから、それで何方《どちら》が余計迷惑するか、比較事《くらべつこ》を致しませう。如何《いかが》で御座います」
「男勝《をとこまさ》りの機敏な貴方にも似合はん、さすがは女だ」
「何で御座います?」
「お聞きなさい。男と女が話をしてゐれば、それが直《ただ》ちに逢引《あひびき》ですか。又|妙齢《としごろ》の女でさへあれば、必ず主有るに極《きま》つてゐるのですか。浅膚《あさはか》な邪推とは言ひながら、人を誣《し》ふるも太甚《はなはだし》い! 失敬千万な、気を着けて口をお利《き》きなさい」
「間さん、貴方、些《ちよつ》と此方《こちら》をお向きなさい
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