に呻《うめ》きしを、老婢《ろうひ》に喚《よば》れて、覚めたりと知りつつ現《うつつ》ならず又睡りけるを、再び彼に揺起《ゆりおこさ》れて驚けば、
「お客様でございます」
「お客? 誰だ」
「荒尾さんと有仰《おつしや》いました」
「何、荒尾? ああ、さうか」
主《あるじ》の急ぎ起きんとすれば、
「お通し申しますで御座いますか」
「おお、早くお通し申して。さうしてな、唯今起きましたところで御座いますから、暫《しばら》く失礼致しますとさう申して」
貫一はかの一別の後|三度《みたび》まで彼の隠家《かくれが》を訪ひしかど、毎《つね》に不在に会ひて、二度に及べる消息の返書さへあらざりければ、安否の如何《いかが》を満枝に糺《ただ》せしに、変る事無く其処《そこ》に住めりと言ふに、さては真《まこと》に交《まじはり》を絶たんとすならんを、姑《しばら》く強《しひ》て追はじと、一月|余《あまり》も打絶えたりしに、彼方《あなた》より好《よ》くこそ来つれ、吾がこの苦《くるしみ》を語るべきは唯彼在るのみなるを、朋《とも》の来《きた》れるも、実《げ》にかくばかり楽きはあらざらん。今日は酒を出《いだ》して一日《いちじつ》彼を還さじなど、心忙《こころせはし》きまでに歓《よろこ》ばれぬ。
絶交せるやうに疏音《そいん》なりし荒尾の、何の意ありて卒《にはか》に訪来《とひきた》れるならん。貫一はその何の意なりやを念《おも》はず、又その突然の来叩《おとづれ》をも怪《あやし》まずして、畢竟《ひつきよう》彼の疏音なりしはその飄然《ひようぜん》主義の拘《かか》らざる故《ゆゑ》、交《まじはり》を絶つとは言ひしかど、誼《よしみ》の吾を棄つるに忍びざる故と、彼はこの人のなほ己《おのれ》を友として来《きた》れるを、有得べからざる事とは信ぜざりき。
手水場《てうづば》を出来《いでき》し貫一は腫※[#「※」は「目+匡」、349−5]《はれまぶた》の赤きを連※[#「※」は「目+荅」、349−5]《しばたた》きつつ、羽織の紐《ひも》を結びも敢《あ》へず、つと客間の紙門《ふすま》を排《ひら》けば、荒尾は居らず、かの荒尾譲介は居らで、美《うつくし》う装《よそほ》へる婦人の独《ひと》り羞含《はぢがまし》う控へたる。打惑《うちまど》ひて入《い》りかねたる彼の目前《まのあたり》に、可疑《うたがはし》き女客も未《いま》だ背《そむ》けたる面《
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