に足らんけれど、一婦人《いつぷじん》の為に発狂したその根性を、彼の友《フレンド》として僕が慙《は》ぢざるを得んのじや。間、君は盗人《ぬすと》と言れたぞ。罪人と言《いは》れたぞ、狂人と言れたぞ。少しは腹を立てい! 腹を立てて僕を打つとも蹴《け》るとも為て見い!」
彼は自ら言《いは》ひ、自ら憤り、尚《なほ》自ら打ちも蹴《けり》も為《せ》んずる色を作《な》して速々《そくそく》答を貫一に逼《せま》れり。
「腹は立たん!」
「腹は立たん? それぢや君は自身に盗人《ぬすと》とも、罪人とも……」
「狂人とも思つてゐる。一婦人の為に発狂したのは、君に対して実に面目《めんぼく》無いけれど、既に発狂して了《しま》つたのだから、どうも今更為やうが無い。折角ぢやあるけれど、このまま棄置いてくれ給へ」
貫一は纔《わづか》にかく言ひて已《や》みぬ。
「さうか。それぢや君は不正な金銭《マネエ》で慰められてをるのか」
「未だ慰められてはをらん」
「何日《いつ》慰めらるるのか」
「解らん」
「さうして君は妻君を娶《もら》うたか」
「娶はん」
「何故《なぜ》娶はんのか、かうして家を構へてをるのに独身ぢや不都合ぢやらうに」
「さうでもないさ」
「君は今では彼の事をどう思うてをるな」
「彼とは宮の事かね。あれは畜生さ!」
「然し、君も今日《こんにち》では畜生ぢやが、高利貸などは人の心は有つちやをらん、人の心が無けりや畜生じや」
「さう云ふけれど、世間は大方畜生ぢやないか」
「僕も畜生かな」
「…………」
「間、君は彼が畜生であるのに激してやはり畜生になつたのぢやな。若《も》し彼が畜生であつたのを改心して人間に成つたと為たら、同時に君も畜生を罷《や》めにやならんじやな」
「彼が人間に成る? 能はざる事だ! 僕は高利を貪《むさぼ》る畜生だけれど、人を欺く事は為んのだ。詐《いつは》つて人の誠を受けて、さうしてそれを売るやうな残忍な事は決して為んのだ。始から高利と名宣《なの》つて貸すのだから、否な者は借りんが可いので、借りん者を欺いて貸すのぢやない。宮の如き畜生が何で再び人間に成り得《う》るものか」
「何為《なぜ》成り得《え》んのか」
「何為《なぜ》成り得《え》るのか」
「さうなら君は彼の人間に成り得んのを望むのか」
「望むも望まんも、あんな者に用は無い!」
寧《むし》ろその面《めん》に唾《つば》せんとも思
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