、阿母《おつか》さんに会ふ度に、今度は話さう、今度は話さうと思ひながら、私の口からは何と無く話し難《にく》いやうで、実は今まで言はずにゐたのだけれど、その事が初中終《しよつちゆう》苦になる所為《せゐ》で気を傷《いた》めるから体にも障《さは》るのぢやないかと、さう想ふのです」
 思凝《おもひこら》せるやうに母は或方を見据ゑつつ、言《ことば》は無くて頷《うなづ》きゐたり。
「それで、私は阿母さんに相談して、貫一さんをどうかして上げたいの――あの時にそんな話も有つたのでせう。さうして依旧《やつぱり》鴫沢《しぎさわ》の跡は貫一さんに取《とら》して下さいよ、それでなくては私の気が済まないから。今までは行方《ゆきがた》が知れなかつたから為方がないけれど、聞合せれば直《ぢき》に分るのだから、それを抛《はふ》つて措《お》いちや此方《こつち》が悪いから、阿父さんにでも会つて貰《もら》つて、何とか話を付けるやうにして下さいな。さうして従来通《これまでどほり》に内で世話をして、どんなにもあの人の目的を達しさして、立派に吾家《うち》の跡を取して下さい。私はさうしたら兄弟の盃《さかづき》をして、何処までも生家《さと》の兄さんで、末始終力になつて欲いわ」
 宮がこの言《ことば》は決して内に自ら欺き、又敢て外に他《ひと》を欺くにはあらざりき。影とも儚《はかな》く隔《へだて》の関の遠き恋人として余所《よそ》に朽さんより、近き他人の前に己を殺さんぞ、同く受くべき苦痛ならば、その忍び易きに就かんと冀《こひねが》へるなり。
「それはさうでもあらうけれど、随分考へ物だよ。あのひとの事なら、内でも時々話が出て、何処にどうしてゐるかしらんつて、案じないぢやないけれど、阿父さんも能《よ》くお言ひのさ、如何《いか》に何だつて、余り貫一の仕打が憎いつて。成程それは、お前との約束ね、それを反古《ほご》にしたと云ふので、齢《とし》の若いものの事だから腹も立たう、立たうけれど、お前自分の身の上も些《ちつと》は考へて見るが可いわね。子供の内からああして世話になつて、全く内のお蔭でともかくもあれだけにもなつたのぢやないか、その恩も有れば、義理も有るのだらう。そこ所《どこ》を些《ちつ》と考へたら、あれぎり家出をして了ふなんて、あんなまあ面抵《つらあて》がましい仕打振をするつてが有るものかね。
 それぢやあの約束を反古にして、も
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