も慌忙《あわただ》しげに、
「後が出来たのぢやないかい」
宮は打笑《うちゑ》みつ。されども例の可羞《はづか》しとにはあらで傍痛《かたはらいた》き余を微見《ほのみ》せしやうなり。
「そんな事はありはしませんわ」
「さう何日《いつ》までも沙汰《さた》が無くちや困るぢやないか。本当に未《ま》だそんな様子は無いのかえ」
「有りはしませんよ」
「無いのを手柄にでもしてゐるやうに、何だね、一人はもう無くてどうするのだらう、先へ寄つて御覧、後悔を為るから。本当なら二人ぐらゐ有つて好い時分なのに、あれきり後が出来ないところを見ると、やつぱり体が弱いのだね。今の内養生して、丈夫にならなくちや可けないよ。お前はさうして平気で、いつまでも若くて居る気なのだらうけれど、本宅の方なんぞでも後が後がつて、どんなに待兼ねてお在《いで》だか知れはしないのだよ。内ぢや又|阿父《おとつ》さんは、あれはどうしたと謂ふんだらう、情無い奴だ。子を生み得ないのは女の恥だつて、慍《おこ》りきつてゐなさるくらゐだのに、当人のお前と云つたら、可厭《いや》に落着いてゐるから、憎らしくてなりはしない。さうして、お前は先《せん》の内は子供が所好《すき》だつた癖に、自分の子は欲くないのかね」
宮もさすがに当惑しつつ、
「欲くない事はありはしませんけれど、出来ないものは為方が無いわ」
「だから、何でも養生して、体を丈夫にするのが専《せん》だよ」
「体が弱いとお言ひだけれど、自分には別段ここが悪いと思ふところも無いから、診《み》てもらふのも変だし……けれどもね、阿母《おつか》さん、私は疾《とう》から言はう言はうと思つてゐたのですけれど、実は気に懸る事があつてね、それで始終何だか心持が快《よ》くないの。その所為《せゐ》で自然と体も良くないのかしらんと思ふのよ」
母のその目は※[#「※」は「目+登」、225−17]《みは》り、その膝《ひざ》は前《すす》み、その胸は潰《つぶ》れたり。
「どうしたのさ!」
宮は俯《うつむ》きたりし顔を寂しげに起して、
「私《わたし》ね、去年の秋、貫一《かんいつ》さんに逢つてね……」
「さうかい!」
己だに聞くを憚《はばか》る秘密の如く、母はその応《こた》ふる声をも潜めて、まして四辺《あたり》には油断もあらぬ気勢《けはひ》なり。
「何処《どこ》で」
「内の方へも全然《まるきり》爾来《あれから》
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