けながら、さざなみの呟きを静かに傾聴していた。水夫や使臣たちは遥か向うで、ぼんやりとした影のように一団をなしていた。もしも雷《らい》が鳴り出して、赤い帆に暴風が吹き付けたらば、船はきっと覆《くつがえ》ってしまったかも知れない程に、船上の人間たちは、生のために戦う意志もなく、ただ全くぽかん[#「ぽかん」に傍点]としていた。そのうちに、ようようのことで二、三人の水夫が船べりへ出て来て、海の洞《ほら》にひらめく水神の淡紅色の肩か、楯を持った酔いどれの人馬が波を蹴立てて船と競走するのかを見るような気で、透き通る紺碧の海を熱心に見つめた。しかも深い海は依然として荒野の如く、唖のごとくに静まり返っていた。
ラザルスはまったく無頓着に、永遠の都のローマに上陸した。人間の富や、荘厳無比の宮殿を持つローマは、あたかも巨人によって建設されたようなものであったが、ラザルスに取ってはそのまばゆさも、美しさも、洗練された人生の音楽も、結局荒野の風の谺か、沙漠の流砂の響きとしか聞こえなかった。戦車は走り、永劫の都の建設者や協力者の群れは傲然として巷《ちまた》を行き、歌は唄われ、噴水や女は玉のごとくに笑い、酔える
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