ラザルスに着せた。そうして、彼は自分の一生涯をおそらく知らないであろうと思われる花嫁の聟としてこの衣裳を着ていた。それはあたかも古い腐った棺桶に金鍍金《きんめっき》をして、新しい灰色の総《ふさ》で飾られたようなものであった。華やかな服装をした皇帝の使臣たちは、ラザルスのうしろから結婚式の行列のように騎馬でつづくと、その先頭では高らかに喇叭を吹き鳴らして、皇帝の使臣のために道を開くように人々に告げ知らせた。しかしラザルスの行く手には誰も立つ者はなかった。彼の生地では、この奇蹟的によみがえった彼の増悪すべき名前を呪っていたので、人々は恐ろしい彼が通るということを知って、みな散りぢりに逃げ出した。真鍮の金属性の音はいたずらに静かな大空にひびいて、荒野のあなたに谺《こだま》していた。ラザルスは海路を行った。
 彼の乗船は非常に豪奢に装飾されていたにも拘らず、かつて地中海の瑠璃色の波に映った船のうちでは最も悼ましい船であった。他の客も大勢乗合わせていたが、寂寞として墓のごとく、傲然とそり返っている船首を叩く波の音は絶望にむせび泣いているようであった。ラザルスは他の人々から離れて、太陽にその顔を向
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