。
空間と暗黒によって掩い包まれている人間は、永遠の恐怖に面して、絶望に顫えおののいているのである。」
しかしラザルスと言葉を交すことを好まない人たちは、更にいろいろのことを言った。そうして、みな無言のうちに死んでいるのであった。
四
この時代に、ローマにアウレリウスという名高い彫刻家がいた。かれは粘土や大理石や青銅に、神や人間の像を彫刻し、人々はそれらの彫刻を不滅の美として称《たた》えていた。しかし彼自身はそれに満足することが出来ず、世には更に美しい何物かが存在しているのであるが、自分はそれを大理石や青銅へ再現することが出来ないのであると主張していた。
「わたしは未だ曾て月の薄い光りを捉えることも出来ず、又は日の光りを思うがままに捉え得なかった。私の大理石には、魂がなく、わたしの美しい青銅には生命がなかった。」と、彼は口癖のように言っていた。そうして、月の晩にはサイプレスの黒い影を踏みながら、彼は自分の白い肉衣を月光にひらめかして見ていたので、道で出逢った彼の親しい人たちは心安立てに笑いながら言った。
「アウレリウスさん。月の光りを集めていなさいますね。なぜ籠《かご》を
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