と流れていたのだ。それが、一晩のうちに、十度近くも気温が下ったので、河は一面に厚い氷にとざされている。そこに鴨が浮いているので、定めし呑気な奴だろうと思って、氷の上を近よっていくと、少しも逃げない。ピストルの着弾距離までも寄せて、平気である。
これは面白い、というわけで、早速、ピストルで鴨猟だ。ところが、ピストルの音にもまだ逃げない。よく見ると、鴨は足をすっかり氷に張りつめられて、飛ぶことが出来ないのだ。
何のことはない、玩具の鴨を弾つようなもので、いくらでもとれる。一々弾つのは面倒くさいので、大きな鎌をもってきて、氷に足をとられて動けないでいるやつを、その足を刈ってはとるのだ。これこそ本当のカモガリだ。
そういうわけで、鴨の足だけは、氷のなかに刈り残される。それが翌年になって、春の末の温気と共に、河に張りつめた氷がとけると、何しろ天地万物が芽ぐむ春のことだ、鴨の足からも芽を出して、立派な鳥となる。一冬氷や雪のなかに閉籠められていたので、全身真白で、鴨の足から芽を出した鳥なので、それをカモメというのだ……。
*
右のような話をして、海軍士官は朗かに笑った。私も笑った
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