[#「盂蘭盆」は底本では「孟蘭盆」]の仏壇につきものとなっているのは、仏教の広まってる地方共通の周知の事柄である。が、或る地方では盂蘭盆[#「盂蘭盆」は底本では「孟蘭盆」]の前七月七日の七夕祭が、可なり盛んに行われる。七八歳の子供達は、七夕に関係ある俳句や和歌や漢詩の類を、前々から習字しておいて、それを七夕の日の朝、普通の軸物くらいの大きさに清書し、床の間に掛けて、いろんな果物や野菜の類を供える。その後で、女の子は、色紙で小さな衣服を裁ち、男の子は、色紙の短冊に勝手な文句を書きちらし、それを青笹の枝に吊して、縁先の庭に立てる。そして、それらの文字のために用いられる硯の水は、蓮の葉にたまった露のしずくを最もよしとしてある。子供達は早朝から起き上って、夜のうちに蓮の葉にたまってる、水銀ようにとろりとした清い露のしずくを、いそいそとして集めに出かける。
 そういう話を、一昨々年の夏、私は或る友人に向ってした。すると十日ばかりたって、美事な紅蓮の一鉢を植木屋から届けて来た。友人の名刺がついていた。私の手蹟が余り拙劣なので、蓮の葉の露を取って習字でもせよ、という謎かも知れないが、然し私には非常に
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