、十近くもの家族が住み、それぞれ自炊しているのです。
身禄さんのことを江口さんは気にかけて、吹聴して廻りました。A女のことは堅く口止めされていました故、ただ漠然とどこからともなく聞いてきたことにして話しました。すると、だいたい三つの説にわかれました。そういうことならまあお詣りをしておこう、という当り障りのないのが一つ。そのようなことはどうでも宜しい、という無関心なのが一つ。この科学の世の中にばかなことを言うものではない、という反対なのが一つ。一向まとまりはつきませんでした。
ただ、江口さんとほかに二家族だけが、身禄さんに時々お詣りをしました。碑のまわりを掃除したり、草をむしったりしました。A女もまた、江口さんに案内されて、お詣りをし、読経を捧げました。
そして、二ヶ月ばかりたったある夜、不思議なことが起りました。
深夜、A女はふと眼を覚しました。へんに息苦しく、異様な気持ちでした。瞳を宙に凝らしていますと、音なき声が聞えました。
――水行。
しかし、その声を聞いたあとで、A女は我に返って、これは厄介なことになったな、と思いました。夏のことではありましたが、夜中に起き上って水
前へ
次へ
全33ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング