辞退して、帰ってゆきました。
表の街路に出ると、小泉さんは囁くように言いました。
「無理なことお願いして、ほんとに済みませんでした。」
「いいえ、おかげでいい気持ちでした。」
A女は頬笑んで、空の遠くへ眼をやりました。
松しまでは、すぐに、稲荷の祠の建設に着手しまして、石の土台を築きあげ、その上に、屋根に銅板を張った白木の御堂を定着させました。御魂入れの儀式も、神官をたのんで取行われました。昔のように幟を立て幔幕を張って、盛大なお祭りまでしました。女将さんのただ一つの心残りは、そのお祭りにA女が来てくれなかったことだったそうです。
底本:「豊島与志雄著作集 第五巻(小説5[#「5」はローマ数字、1−13−25]・戯曲)」未来社
1966(昭和41)年11月15日第1刷発行
初出:「中央公論」
1952(昭和27)年1月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
※「秘/祕」「仏/佛」「万/萬」「禄/祿」の新字旧字の混用は、底本通りです。
入力:tatsuki
校正:門田裕志、小林繁雄
2007年1月16日作成
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