、江口さんは、日頃懇意にしているA女を訪れた際、世間話のついでに、訴えてみました。
 A女はいわゆる戦争未亡人で、普通のひとですが、実は、彼女自身では誰にも口外しませんでしたけれど、神仏二道の行を深く積んでいて、特殊な能力を会得していました。それを、江口さんは知っていました。二人とも四十五歳ばかりの年配で、未亡人同士なものですから、普通の主婦たちよりは、立ち入った交際が出来たのでしょう。
 江口さんはA女の顔色を窺いながら、言いました。
「なんだか気になるから、ちょっと、みて下さいませんか。」
「みるって、なにをですの。」
「まあ、とぼけなくっても、いいじゃありませんか。」
「べつに、とぼけるわけではありませんけれど……。でも、たいへんなことになると、わたくしが困りますからねえ。」
「大丈夫、御迷惑はおかけしませんから……。」
 A女はじっと宙に眼を据えました。もともと痩せてる頬ですが、その蒼白い皮膚が引き緊りました。
「だいたい分りますが……。とにかく、助経して下さい。」
 江口さんも一通りは読経が出来るのでした。
 A女は数珠を手にして、祭壇の前にぴたりと端坐しました。地袋の上の棚
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