。建築をするため、地ならしをする時、切株は取り除かれたのでした。
A女はその話を注意深く聞き終ってから、小首を傾げました。
「それだけですか。」
「ええ、二つとも確かにありましたわ。」
「も一つある筈ですがねえ。」
「どんなものですの。」
「なにか、捨て去られたもののようです。」
「それでは、も一度行って調べてみましょう。」
村尾さんはしみじみとA女の顔を見守りました。
「でも、まったくふしぎねえ、あなたにどうしてそんなことがお分りになりますの。」
A女はさりげなく笑いました。
「じつは、いくらか信仰の道にはいったことがありまして、今も修業は続けておりますが、なかなか思うようには参りません。ただ、申しておきますが、わたくしは、普通の行者とか占い師とか、この頃はやりの新興宗教の人とか、そういうのとは少しく違いますからね……。だから、というわけではありませんが、わたくしのこと、ほかの人には漏らさないで下さいね、お願いしますよ。」
村尾さんは一挙に言い伏せられたような風で、もう何も言いませんでした。
それから三日後、村尾さんの報告によりますと、第三のものも見出されました。相良家の屋敷から、道路を距てた、焼跡の草むらの中に、約四尺ほどの小さな石の地蔵が、ぽつんと立っていました。
さて、三つのものは発見されましたが、それをどうしたらよいか、村尾さんは尋ねました。
A女は最初に念を押しました。
「申しておきますが、御病人たちは、医療を怠りなさってはいけませんよ。それを充分になさらないと、どうにもなりません。わたくしの方のことは、霊界のことで、謂わば科学の蔭にかくれたことです。医療を充分になさりながら、これをなさると、宜しいんですけれど……さあ、どうですかねえ、なかなかむつかしいかも知れませんね。」
お稲荷さんを新たにお祭りすること――これは相良家にして貰えばよろしい。樹の切株のあった場所をお祓いして浄めること――これは神官でも僧侶でも行者でもよいが、然るべき人に頼んで、皆さんでなさればよろしい。お地蔵さんを新たにお祭りして世に出してあげること――これも然るべき人に頼んで、皆さんでなさればよろしい。以上の三つで、至極簡単なことのようでした。
村尾さんはもうすっかりA女の言うことを信じていましたから、早速、今井さんのところへ行って、夫婦に事の次第をうち明け、実行に
前へ
次へ
全17ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング