ましたよ。死んだ時にも笑っていました。片方の目を細く開き口を開いて笑ってるものですから、それを閉じさせるのに骨が折れたくらいです。あの時は三つでしたが、四つ……五つ……六つ……と、だんだん可愛くなるばかりです。生きてたらもう私と一緒に、公園なんか散歩するでしょう。そろそろ学校へも上る頃ですね。屹度よく出来るに違いありませんよ、利口な子でしたからね。そしてだんだん綺麗になってゆくんです。母親は綺麗じゃありませんでしたが、不思議に子供は上品な立派な顔をしていました。がそれももう、ずっと昔のことです。どうかすると何もかもぼんやりして、忘れそうになることがあります。そんな時私は、堪らないほど淋しい陰欝な気持になります。然しまたすぐに諦めます。子供はいくらも世間にいますからね。いつでも何処にでも、あり余るほど沢山います。子供がこの世にいなくなることは決してありません、決してないんです。」
彼は一寸鹿爪らしい顔付になって、眼の曇りが薄らぎ底深い空洞を示しかけたが、それがまたふっと曇ってきて、口許ににやりと薄ら笑いを湛えた。
「子供は温かなものですよ。ほかほかとした何とも云えない温かさです。一寸他
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