い、本当に子供だという感じのするのは、女の子に限るじゃありませんか。その上私の子供も、やはり女の子だったんです。」
彼はひょいと首を縮めて、私の眼にじっと見入ってきた。その瞳の据った曇った眼付に、私は何だかぎくりとしたが、さあらぬ体で尋ねかけた。
「そのあなたの子供はどうなったんですか。」
「死にましたよ。母親と殆んど一緒でした。私はその子を余りに可愛がらなかったようです。いや、子供は可愛かったんですが、母親がさほど可愛くなかったものですからね。東京の者で、私より三つも年上で、癇癪持ちでしてね、始終私をいじめてばかりいました。意気地なしだの、愚図だの、馬鹿だのと云って、頭ごなしにやっつけるんです。時には癇癪まぎれに、女にも敵わない弱虫ですかって、私をさんざん小突き廻すことさえあるんです。それなら初めっから、私と一緒にならなけりゃいいんですがね、私はその女のお影で、学校はしくじるし、身体は悪くするし、さんざんな目に逢いましたよ。それでも女は、私を大事にはしてくれたんですね。着物の着方から下駄のはき方から言葉附まで、一々教えてくれましたからね。私が保険会社に出るようになったのも、女が奔走
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