、魚の墓場というものがある。起伏の多い深海で、片方に岩礁が峙ち、洞窟のようになり、底は一面の白砂、藻の類もない。ふしぎに静かで、暴風の時にも、そこだけはひっそりしている。つまり海底の岩陰である。そこに、病気の魚貝類が身を寄せて、静かに死んでゆく。だから、その白砂の上には、魚の骨や、貝殼や、宝石みたいな小石が、美しく洗い清められて、夥しく積っている。
 この魚の墓場は、本当のことで、たいていの漁夫は知っている。
 むかし、或る漁夫がありまして、魚の墓場を覗いてみますと、そこに、なんだか真黒く光っている物がありました。魚のような恰好の物で、真黒ですが、ふしぎにつやつやと光っているのです。
「見たことも聞いたこともない、珍らしい物だが、これは、宝物かも知れないぞ。」
 そう思って、漁夫は魚の墓場にもぐりこみ、その真黒なものを抱きあげてきました。見れば見るほど、美しくつやつやと光っています。
 漁夫はそれを家に持って帰り、棚の上に大切に置いておきました。
 その日から、この漁夫の網には、嘗てないほどたくさんの魚がはいり、貧乏だったのが、金持ちになってきました。
 そのことを伝え聞いて、黒い宝物
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