竜宮
豊島与志雄
今時、竜宮の話などするのはちとおかしいが、また逆に、こういう時代だから、竜宮の話も少しはしてよかろう。
竜宮といえば、先ず、「浦島太郎」の昔話が思い出される。これは誰でも知ってるもので、ここに梗概を述べるにも及ぶまい。
ただ、注目すべきは、浦島太郎が竜宮の乙姫様から貰ってきた玉手箱のことだ。あの箱を開けたために、三年の月日が三百年の現実に還り、浦島はよぼよぼの老人になってしまった。然し、もしあの箱を開けなかったら、どうだったであろうか。浦島は永く青春を保ち得たであろうか。或るいは竜宮へまた戻れたであろうか。どちらも疑わしい。
このようなことは、然し、この昔話では問題にしないがよかろう。青春や享楽に対する愛惜として、素直に受け取るべきものであろう。
ギリシャ神話のパンドラの匣、浦島太郎の玉手箱、古人は面白いものを考え出した。
*
竜宮に関する昔話はたくさんあるが、そのなかで面白いのは、「くらげ骨なし」だ。これは、海月がその饒舌の罰を受けることが主題であるけれど、面白いのは他の点にある。この話は柳田国男氏も記述しておられるが、広く知られてはいない
次へ
全8ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
豊島 与志雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング