たので、その信用が彼の上にまで拡ったことも見逃してはなりません。
彼はただぼんやり港の荷役の光景を眺めてるだけのようでありましたが、一年ばかりたつうちには、その間に徐々にではありましょうが、荷役人夫の組合を拵えてしまって、その元締の地位にしっかと腰を下していたのであります。殊に張家の荷役は全く彼の手中に握られていました。後になってこのことに気付いて喫驚した人も少くありません。
彼が率いていた苦力人夫は、腕に青色の布片を縫いつけていました。大体苦力たちの服が、きたなく褪せてはいては青っぽいものなので、その青色の布片は初めは殆んど人目につきませんでしたが、いつしか船員たちにも町の商人たちにも知れ渡り、その布片が次第に数をますにつれて、それがないと幅も利かないし仕事も少いというような状態になってゆきました。
そして数年のうちに、彼は張家の腹心の番頭格になり、また町の労働者間に確固たる地位を築きましたが、彼自身は、背が高いのと腕が長そうだという感じを与えるだけで、一向人目につかない粗服をまとい、どんな用件も至極簡単な言葉ですまし、無駄口は殆んど利かず、喧嘩口論などは全くせず、そして始終に
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