うだい、一緒に行こう。」
彩紅は朱文の眼の中を覗きこんで、いいました。
「あなたの気持、あたしにも分るわ。だけど、あたしにはとても、あなたと同じような力が持てそうにないの。」
「だから僕が生涯、おぶったり抱いたりしてあげると、いってるんだよ。」
「でも、あたしの方に、おぶさったり抱っこしたりする力も、なかったとしたら……。」
「なぜそんなことをいうんだい。」
「もう、ほんとに生きてしまったの。有難いわ。」
彩紅が急に涙ぐんでよりかかってくるのを、朱文は胸に受けとめて、じっとしていましたが、俄に涙をはらはらと流して、彼女を力一杯に抱きしめたのでありました。
朱文のことは、それきり、この土地では行方不明に終って、その消息の片鱗さえも伝わっていません。
ただ、右のことから翌々日の朝、彩紅の溺死体が、河の岸近くに発見されました。張氏へあてた簡単な遺書がその居室にありましたので、自殺だということが分りました。遺書の文句は不明でありますが、それに随ってとかいうことで、彼女の死体は、張家の楠の根本に、鄭重な楠材の棺に納めて葬られ、漆喰でぬり固められました。
それから、その楠のそばに、立札
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