。或はそうかも知れないと、中江は思うのだったが、現在の自分の経済的破綻――身体のことでなく、実際の生活の行き詰りが、大きく目についてきて、座にじっとしていられないような気が起ってくるのだった。
「尤も、あのひとのように……。」と小泉はふいに云っている。「あのひと、家庭を持ってやしないんだろうね。あのひとのように、やたらに貯蓄ばかりして、脂肪を皮下に死蔵するのは、まだいい方かも知れないが……。」
「いい体質じゃないんだね。」
「え?」と小泉は一寸眼をあげたが、「ああ、あのひとか、そんなところまでは分らないが、脂肪肥満は、とかく、新陳代謝の邪魔になることがあるようだね。」
 実際、どこか新鮮さの足りない身体だと、中江はまたもキミ子のことを考えるのだった。そこへ、小泉のところへ電話がとりつがれて、三時すぎに来て貰えまいかとの知人の頼みだった。折角の日曜もこれだからと、小泉は不平をこぼすのだったが、中江から見れば、研究旁々病院に勤めていて、知人の患者だけを面倒見てやる彼の落付いた生活が、余りに散漫で中心点のない自分の生活に比べて、羨ましくなるのだった。と共にまた、心の憂欝や実際的な悩みを、小泉
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