りしてみるのであった。ばかばかしいと気付いても、もう遅いと自分で自分を投げだすのであった。
夜なかに、中江はぼんやり眼をさました。まだ身体の隅々は影のなかにあったが、頭のしんに、ぽつりと朧ろな燈火がともって……それが、寝室の二触の電気の明るみとなった。その意識のなかで、胃部に不快な重みを感ずると共に、腹部がいやに軽やかで、殊に下腹部には、空腹の極に於けるように、まるで力がなく頼りがなかった。胃部の重みは始終馴れてることだったが、腹部の軽やかさ、殊に下腹部の力なさ頼りなさは、初めてのことだった。それが不安になって、つっ伏しに寝返ってみると、胃の重みはなくなったが、腹の空疎な軽い感じだけが、一層はっきり残った。それがじかに頭のどこかにつながってるようだった。そこに思考の力のぬけはてた空疎なところがあった。そしてそのまわりを、重い雲みたいなものがとざしていた。眠りながら、何かしきりに考えていて、それらの考えが雲になってまわりをとざし、その真中に、白痴に似た空虚が出来たもののようだった。その空虚のところから、もやもやとした雲の壁を物色してみると、どこもここも行き詰りだった。……なんだか、眠
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