だったが、その調子に変につっかかってくるものを感じて、中江の方で眼をみはった。それは男の腕さ、などと受太刀になりながら、ふと自嘲の気味で、実は島村君には、眼の活発な断髪の美人がついてるようだがと、キミ子のことを、我にもなく持ちだしてみると、静葉は一寸首をかしげてから、それは、たしかキミ子さんとかいうひとではありませんかと、図星をさしてしまったのである。あのひとなら、あたしも一度ここでお目にかかったことがある、という。
「ほう、三人で、この家で……。」
中江はおどけた様子で、片手をあげて頭の真上を叩いたが、それだけでは胸の納まりがつかなかった。もともと島村と懇意になったのも、キミ子の紹介からであるし、キミ子を愛するようになってからは、彼女が島村の家に暫く厄介になったことがあるところから、二人の間を一寸疑ってみたほど、キミ子は島村に馴々しくしていたし、またキミ子の性質からしても、待合の中を見たいという好奇心くらいは持ちそうだったが、それにしても、静葉がキミ子を知ってるということは、キミ子と現在のような関係にある中江にとっては、妙に気恥しい打撃だった。キミ子は嘗てそんなことは色にも現わさな
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