には全く別な世界です。」
と、そこまではよかったが、中江はなお続けて、職工たちの運動に何の援助も助言も出来ない理由として、愚かにも、自分の貧窮をさらけ出してしまったのである。家は借家、電話は五百円の借金の担保にはいってる、知人から三千円ばかりの借金がある、其他、方々への支払の停滞が千円ばかり、なおさし当り、高利貸の厄介になろうかと考えていることなど、手当り次第にぶちまけてしまったのである。柴田は一寸面喰った形で、口を噤んでいたが、やがて、冷静とも冷淡ともつかない調子で云うのだった。
「いや、別に、御援助を仰ぎに伺ったわけではありませんから……。」そして彼はじっと中江の顔色を窺った。「然し、西田のような男と交際なさるのは、お為になりませんですよ。」
中江は自ら不愉快になって黙っていた。柴田もやがて立上った。いずれまた、会社の方の様子をお知らせに上るから、その節はよろしくと、口先だけの調子で云って、見切りをつけたような笑いを最後に残して、帰っていった。
一体彼は何のためにやって来たのかと、中江は後で考えるのだった。或は予め何の計画もなく、ただ様子を窺い旁々、利益の蔓でもあったら臨機に
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