している。私は一寸喫驚する。向うにみさ[#「みさ」に傍点]子が眠っている。私は其処に寄ってゆく。一寸指先で頬をつつくと、眠りながら微笑む。「お止しなさい、」と秀子が云う。私はなお執拗になる。口を押しつけて頬や唇を吸う。子供は眼を覚す。しまいに泣き出す。私はもう嫌になる。「おい、お抱きよ、」と秀子へ云う。「知るものですか、勝手に起しといて、」と彼女は答える。私の方も意地になる。彼女の方も意地になる。子供はなお泣き立てる。はる[#「はる」に傍点]が台所から出て来て、子供を抱く。私は不機嫌になる。いつまでも黙っている。やがて秀子ははる[#「はる」に傍点]に云う、「そっと寝かして、用をしておしまい。むずかったらお父様が守りをして下さるだろうから。」私はそのあてつけに腹を立てる。子供は暫くおとなしく寝ている。やがてむずかり出す。遂には泣き出す。「子供を守りするのは女の役目だ、」と私は秀子へ怒鳴りつける。「子供をいじめるのは男の役目ですか、」と彼女は反問する。口論が初まる。私ははる[#「はる」に傍点]を呼んで、子供を抱けと云いつける。「いいから用を済しておいで、」と秀子は云う。はる[#「はる」に傍
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