まうこと、子供の守りや何かで私の時間が非常につぶされること、それらを不満だとは私も別に思わなかった。然し私が堪え難く思ったのは、生活の凡てが子供によって規定されること、子供を中心にして割り出されることであった。
 夜寝床の中にはいって雑誌を読みながら、余り煙草を吸ってはいけなかった。煙が室の中に籠ると子供に毒だった。雑誌の頁をめくるにも、なるべく静にしなければならなかった。――夜道くまで大声で話してはいけなかった。家の中で友人と談じ且つ飲みながら夜更しをするなどは、殊にいけなかった。八時過ぎになると、私は自分の書斎に退いて、寄宿人みたような態度を取らなければならなかった。――子供が眠っている時には、爪先でそっと歩かなければならなかった。戸棚の抽出を開けるにも、襖を閉めるにも、皆遠慮がちに力を抜いてやらなければいけなかった。夜遅く帰って来ると、宛も盗人のように足音を偸んではいって来、こそこそと表の締りをしなければならなかった。――やたらに嚔《くしゃみ》をしてはいけなかった。もし風邪ででもあると子供に伝染するからであった。――湯には晩にきりはいれなかった。子供を湯に入れるには、私と秀子とが
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