は云い出す。彼女にとっては、私よりも子供の方が大事なのだ。子供は神聖な宝で、猥りに犯してはいけないものなのだ。……然しなおいけないのは、彼女が不機嫌になる時である。私が何か尋ねても碌々返事もしない。そして歯の手術の不愉快なことを、切れ切れな言葉で訴える。訴えた終りには、「みなあなたのせいですよ、よく覚えていらっしゃい、」と止めをさす。私が彼女を殴へりつけたという事実だけが、何時までも残っているのだ。二人が獣のように掴み合ったあの不快な光景は、彼女の頭から消え去ってるかのようである。然し私の頭からは消え去らない。僅かな機縁であの光景が私の頭に蘇ってくる。そして彼女に対する反感――というより寧ろ訳の分らない漠然とした憤懣の情が、むらむらと湧き上ってくる。然し彼女は平然と澄しきっている。最後の止めの一句を云ってしまうと、それで安心しきったように、然しまた凡てから暫く休らいだかのように、「少しお父さんに抱っこしていらっしゃい、」と云いながら子供を私の方へ差出す。「はる[#「はる」に傍点]に抱かしたらいいじゃないか、」と私は答え返す。一寸諍いが起る。「あなたは子供に愛がないんだわ、」と彼女は云う
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