私達は昼に麺麭と牛乳とを取っている。所が秀子は、歯が痛いと云って牛乳だけを飲み、而も乳のためと云って二合近くも飲み、そのまま右の頬を掌で押えて、黙り込んでしまう。私は一人で淋しく麺麭をかじる。彼女は子供をはる[#「はる」に傍点]に預けて、長く坐り込んで動こうともしない。それから俄に、上機嫌か不機嫌かがやってくるのだ。上機嫌な時には種々なことを饒舌る。歯医者の家で逢ったどこそこの奥さんが、こんなことを云ったとか、芸者がどんな着物を着て歯の療治に来ていたとか、今度みさ[#「みさ」に傍点]子を連れて伯父さんの家へ行こうとか、子供があっては芝居にも行けない――それも別に不平の調子でではなく至って殊勝な調子で――などと、いろんなことを云い出す。いい加減調子を合してるうちに、うつかり信用出来ないぞという気が私のうちに起ってくる。なぜか私は知らない。今に背負投げを喰うぞという気持が、暗々裡に私を警戒させるのだ。そして実際、その背負投げを喰うことも屡々ある。私が彼女の上機嫌に引込まれて、頑是ない子供にからかったり、彼女の乳房を弄んでる子供をいじめたりすると、「子供は玩具ではありません、」としまいに彼女
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