だままで、立つのが大儀そうでした。妹も母に似た顔立で、色が白く頬がふっくらしていて、そして背が低く小柄でした。食事の後も、母と調子を合して容易に立とうとしませんでした。
風が吹きだして、雨が来そうな気配に母と妹は戸外へ注意を向けて、暫し黙りこみました。その二人とも、へんに淋しく頼りなさそうでした。良人を亡くしてから貧しい生活を続けてきた五十歳過ぎの母、いずれはどこかへ縁づかなければならない二十四歳の妹、二人とも、気力も体力も弱そうで、そして家庭には、戦死した弟の占めていた場所が新たな空虚を拵えていました。その淋しく頼りない存在の母と妹が、粉食ばかりに弱っていて、矢野さんところの残飯を有難がり、そして昔の夢を追って、鮨やショートケーキの架空な話を楽しんでるのでした。
そこへ、いよいよ雨が来て、雷鳴が激しくなり、それから、近くに雷が落ちました。
落雷の衝撃は、母と妹の心身を打ち拉ぎ、次で昂奮さしたかも知れませんが、一郎にとっては、その哀感を深めるだけでした。彼は自分自身をも、哀感の硝子張りの中に眺めました。雷に裂かれたあの欅を悲哀に似た決意で眺めた自分自身も、残飯の弁当をつっついてる
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