戦時中に厳守されてきたその規律は、終戦後、会社の事務が殆んど無くなった後まで、やはり残存していました。
「何を考えてるんだ。」
水町は相手の注意を促す時の癖で、卓上をこつこつと叩きました。
立川は眼を挙げました。そしてうっかり、社長矢野さんの家の欅に雷が落ちたことを言いだそうとして、唾をのみこみましたが、思い返して、また眼を伏せました。
「遅刻の理由を、はっきり説明したまえ。」と水町は太い声を出しました。
立川は没表情な顔で言いました。
「あとで始末書を書いて差出すことにします。どうせ仕事はありませんから……。」
水町は太い眉をぴくりと動かしましたが、何とも言いませんでした。その隙に、立川はお辞儀をしてその室から出ました。
彼は自席に戻って、紙と筆墨を用意しました。ぺンよりは毛筆で書くべきだと考えたのです。そして墨をすってるうちに、先ず弁当を食べることにしました。
同僚たちはなんだか不審そうな眼を彼に向けながら、弁当を食べていました。事務が殆んど無くなってから、新聞や雑誌や図書を読むのは自由でしたが、高声での無駄話はやはり禁ぜられていました。
立川の弁当には珍らしく米飯が
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