落雷のあと
――近代説話――
豊島与志雄
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雷が近くに落ちたからといって、人の心は俄に変るものではありますまい。けれど、なにか心機一転のきっかけとなることはありましょう。そういうことが、立川一郎に起りました。
暑い日、というよりは寧ろ、乾燥した日でした。午後、流れ雲が空のあちこちに浮んでいたのが夕方になって、消え去ったり寄り集まったりしているうちに、更にその上方高く、入道雲が出てきまして、両方が重り合い乱れ合って、急に暗くなってゆきました。そしてそのまま夜となりました。少しの風もなく、大気は重く淀んでいました。遠くに、稲光りと雷鳴とがありました。それから、冷やかな風が来て、間もなく止み、また風が来ました。大粒の雨がまばらに降りだしました。だが、雨はひどくならず、雷鳴だけが激しくなってゆきました。そして瞬間、万物が息をひそめた気配のなかに、天と地が激
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