だという感じの明るみでした。その中に、欅の大木は影絵のように浮き出して、引き裂かれた傷口だけがなまなましく、そこだけが現実感を露呈していました。立川はそれに眼を見捉えて、それに引き寄せられるように歩いてゆきました。
中空の明るみは急速に消えてゆきそうな頼りなさでした。立川はちょっと足を早めましたが、またゆるやかな歩調に戻り、そのとたんに、涙をほろりと瞼からこぼしました。深い哀感に沈んでるのでした。だがそれは感傷ではなく、決意に満ちたもので、彼の眉は昂然と高められていました。
彼は眼を一つしばたたいて、欅から視線を引き離し、鮨の包みを胸にかかえあげて、上空に光りだしてる星を仰ぎ見ました。
底本:「豊島与志雄著作集 第四巻(小説4[#「4」はローマ数字、1−13−24])」未来社
1965(昭和40)年6月25日第1刷発行
初出:「文芸春秋」
1946(昭和21)年11月
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2008年1月16日作成
青空文庫作成ファイル:
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