ありましたけれど、世界中に誰も見た者がないというほど、珍らしい珠《たま》は一つもありませんでした。
「その不思議な珠を手にいれたいものだな。そうすれば私は世界一の長者《ちょうじゃ》になれるわけだ」
そして長者は、いろいろ工夫《くふう》をこらしましたけれど、どうもうまい考えも浮かびませんでした。雷《らい》の神が落ちたところへ、落ちると同時に駆けつける、そんなことがなかなか出来るものではありません。雷の神はいつどこへ落ちるかわかりませんし、また、ぐずぐずしていれば珠と一緒にすぐ空へ昇っていってしまうのです。
「これは困った」
そして幾日も考えあぐんだ末、長者はとうとうある計画を立てました。
長者の庭のまん中に、大きな高い木が一本ありました。雷の神は何でも高いものの上に落ちるのですから、その庭の木に落ちないとは限りません。そこで、もし雷の神がその木に落ちて、それから地面に転がり落ちたら、木の根下《ねもと》に大きな穴があいて、そこに不思議な珠が落ちるだろう。だから、雷の神を一緒に生捕《いけど》ってしまったら、その珠も手に入れることが出来るだろう。
「そうだ、そうだ」
そこで長者は、雷の
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