雷神の珠
豊島与志雄

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)方々《ほうぼう》に
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      一

 むかし、世の中にいろんな神が――風の神や水の神や山の神などいろんな神が、方々《ほうぼう》にたくさんいた頃のこと、ある所に一人の長者《ちょうじゃ》が住んでいました。その長者が、ある日、他国から来た旅人から、次のような話を聞きました。
 ――雷《らい》の神が空から落ちると、その落ちたところに大きな穴があいて、その穴の底に、まっ白な珠《たま》が残る。それは世にも不思議な珠で、雷の神の宝物にちがいない。なぜなら、落ちた雷の神が黒雲に包まれて空に昇ってゆく時、黒雲はその珠をも一緒に包んで持っていってしまう。だから、その珠を見ようとすれば、雷の神が落ちてすぐに駆けつけなければいけない。けれども、黒雲に包まれてるうちだから、なかなか見つからない。世界中にまだ誰もよく見た者がない。それほど珍らしい不思議な珠だ。
 長者はその話を聞いて考え込みました。それから、その不思議な珠をどうにかして手に入れたいと思いました。言うまでもなく長者のところには、金や宝が蔵《くら》いっぱい
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