態を、彼は自ら、人間性の獣化と考えるのであった。
人間性の獣化ということは、必ずしも不名誉なことでも不愉快なことでもない。否それは却って、佐野陽吉にとっては、愉快な生々とした時間だった。世間体とか気兼とか矜持とか、そういった事柄から一歩外に踏み出したものだった。そして彼は、媚びを売る女達のなまめかしい姿態と香りを眼前に浮べて、想像の中であれこれと選択をした。
――今日出かけて行こう。
ぴょんと踊りはねるような気持で、彼は敏子の方へやっていった。彼女の側には、生れて百五十日ほどになる赤ん坊が、母衣蚊帳の中にすやすや眠っていた。彼はその蚊帳の中へ、腹ん匍いになって頭だけをつき込んで、幼児の柔かい頬辺を、指先でちょいとつついてみた。
「あら、いけませんよ。今眠ったばかりじゃありませんか。」
「はははは、眠ってるな。」
その大きな笑い声になお喫驚して、眉根に小皺を寄せて、子供の方を覗き込んでる敏子の顔を、彼ははね起きながら眺めやった。
敏子の眉根が、やがてゆるんで、子供の寝顔の反射のように、無心の笑みが頬に上ってきた。と一緒に、彼もにこにこと微笑んだ。
「子供の寝顔っていいもんだなあ
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