「そんなもの、猶更じゃないの。あたし、好き嫌いなんかまるでないんだから、どうして、浮気なんかするのよ。」
「それじゃあ……みずてんじゃないか。」
「分んないのね。浮気なんか、ばかばかしいって云ってるじゃないの。あたしこれでも、娘さんと同じ気持よ。え、まだ分んないの。じれったい人ね。」
千代次は本当にじれったそうに、眉根を寄せた。中江も、分らなくて眉根を寄せた。
「分る。僕は分る。」
村尾がふいに叫んだ。そしてひどく沈痛な面持で、宙を見つめている。
「そう。有難いわ。あたし……中風でねているお父さんがあるし、抱えの身だし、つらいこともあってよ。」
彼女はほろりと涙をこぼした。そして、ご免なさい、と云って、笑ってしまったのだ。朗かな笑いだ。
中江は黙りこんでしまった。村尾はまた何か考えこんだ。座が白けて、変にうすら寒かった。
「何か弾きましょうよ。歌って頂戴。」
誰も返事をしなかったが、千代次は三味線を取りに立って行った。その後ろ姿をぼんやり見送って、村尾は云った。
「本当の労働者だ。僕はまいっちゃった。」
「なあに……。」と云いかけて中江はやめた。そして両手に頬をもたせて下を向
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