どよりも、更にすぐれた所がある。朝廷の宗廟たりし太廟の後ろで、多少の時間を持つ散歩者は、一度は必ず足を運んでみるがよい。そこの、柏樹の大木のもとの粗末な卓子に倚って、粗末な茶をすすっていると、精神の疲労はたちまち癒えるし、元気な者は恋を語ってもよかろう。鳩の羽音に驚いて立上れば、低い石塀を越して、堀の向う、旧紫金城の城壁下の人通りも少い広場には、看相を業とする老人が机を据えており、その横では、地面に設けられた輪投遊びを貧しげな人々が楽しんでいる。
      *
 前門外という言葉は、北京旅行者にはただ遊里と響くことが多い。然しここに、支那の富有な老舗は軒を並べている。それら老舗の奥深さと商品の豊富さとは驚嘆に価する。例えば毛皮商の店を訪れてみれば、あらゆる動物の毛皮があり、数百円数千円の豪華品が、幾つもの広間の四壁に処狭きまでに掛け並べてある。また或る楽屋には、高価な六神丸が一杯つまってる箱の横に、玉容丸と称する洗顔用の秘法練薬の箱があり、おしゃれの者には一個六銭で売ってくれる。
 前門外は元来、こうした老舗の町である。その側に遊里があるが、これは固より富有な街区への付属物である。遊
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